セミナー情報


地球磁気圏に付随した電荷交換X線放射のモデル化と将来展望

日時:2024/7/31(水)17:00-18:30

講演者:伊師大貴 (JAXA 宇宙科学研究所・宇宙航空プロジェクト研究員)

場所:物理会議室(理学部1号館4階)

概要:

2000年代以降、すざく衛星などの宇宙X線観測により、太陽風に含まれる O7+ などの多価イオンが地球周辺に薄く広がる外圏の主に水素原子から電子を奪う「電荷交換反応 (Charge eXchange; CX)」に伴う発光現象が確立しつつある。太陽風密度が高まる地球磁気圏の昼側、特にシースやカスプにおいて、強く放射していると予想されており、地球周辺 CX は目には見えない地球磁気圏を可視化する全く新しい手段になり得る。一方、主に磁気圏内から行われる宇宙X線観測において、本放射は常に前景雑音として存在するものであるため、その時空間分布の把握や変動予測は天文観測にとっても重要である。

そこで我々は、広がった放射に対して高い感度と分光性能を持つ「すざく」の全公開データから発光イベントを網羅的に探索した。天体以外の軟X線バックグラウンド領域の有意な時間変動を探し、なおかつ太陽風変動と有意な相関があるものを地球周辺 CX とみなす。我々は 2005年8月から2015年5月の全3055データから約90イベントの検出に成功した。検出数は太陽活動に応じて増減し、視線方向がカスプを向いている時に検出率が高まる傾向にあることを突き止めた。次に我々は、太陽風変動、地球外圏分布、磁気圏形状を包括的に取り入れた発光モデルを構築した。太陽風観測衛星 ACE や WIND のリアルタイム太陽風データ、地球外圏の水素密度分布の経験式、地上実験や理論計算にもとづく CX 断面積を掛け合わせ、視線積分する。特に明るい発光5例でモデル検証した結果、磁気嵐が発生していた1例を除けば、OVII 発光強度は誤差の範囲内で観測値と一致した。一方、OVIII 発光強度は全事象で 5-10倍以上過少評価した。前者は磁気嵐時の内部磁気圏への太陽風イオン流入、後者は ACE 衛星の O8+ 測定値または CX 断面積データに原因があると考えている。各輝線の時間変動についても比較すると、数時間程度の変動だけでなく、地球1周回 (すざく 約 90 分) 毎に視線方向がカスプを横切る際に生じる 5-10分程度の突発的な変動も再現できることが分かった。

本セミナーでは、こうした最近の成果を紹介し、太陽極大期を迎えつつある今、XRISM 衛星で期待される成果や地球磁気圏X線撮像計画 GEO-X で切り拓く太陽惑星系X線科学についても述べたい。


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AI時代の理系英語コミュニケーション: 論文執筆、履歴書からレフェリー交渉まで

日時:2023/12/15(金)10:30-12:00

講演者:坂野正明 (ワイズバベル (英文校閲・日英翻訳: Twitter/@WiseBabel) http://www.wisebabel.com/

場所:2023/12/13追記 都合によりオンライン配信に変更します。
zoomミーティング ID: 819 0822 7726
パスコードは teradaあっとmail.saitama-u.ac.jpまでご連絡ください。学内にも掲示します。

理学部3番教室(理学部 講義実験棟 1階)

概要:

ちゃんとした英語文章を書くとき、自分の英語が本当に意図通り伝わるのか、不安感がなかなか拭えない経験がありませんか。母国語でさえ書き言葉は難しいところ、英語ならばなおさらなのはもっともです。その時、明日からでも実行できる最大の対策は、理路整然と書くことにつきます。それは論文であれあるいは交渉事の通信であれ共通の大原則です。 近年はChatGPTなどAIベースの優れたツールも登場してきました。しかし、元々筋が間違っていたりあるいは入り組んでしまっている文章を正確で読みやすいものにしてもらうことは期待できません。実はAI時代だからこそ、今まで以上に書き手の資質が問われるとも言えます。むしろ、AI生成の十把一絡げの文章があふれかねない近未来こそ、書き手として何か光るものを出したいものです。 本講演では、理路整然とした筋の立て方と、それを英文として確実に伝達する作文方法について、本質的でかつ具体的、実戦的なアドバイスをまとめます。近年の補助ツールの発展の功罪にも触れます。過去データ機械学習をベースとするAIに特有の欠点であるコンプライアンス的問題についても言及し、グローバル時代を生きる人々のコミュニケーションに一つの指針を提供します。英国在住20年超、論文他の英文校閲を主業とし、日本語を母語とする理系研究者や学生の英文に見られる典型的傾向を熟知する講演者によるセミナーです。


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X線観測による矮新星静穏時および爆発時における硬X線放射領域の空間分布の解明

日時:2023/11/27(月)10:00-11:30

講演者:武尾舞 日本学術振興会特別研究員/埼玉大学理工学研究科

場所:理学部2番教室(理学部講義実験棟1階)

概要:

我々は、矮新星のプラズマおよび反射体である白色矮星や降着円盤の位置関係を様々に変えた反射シミュレーションを用いて、観測された6.4keV鉄輝線と反射スペクトルをプローブとして、硬X線放射領域の空間分布を精密に調べる研究に取り組んでいる。我々は代表的な矮新星4天体(U Gem、SS Cyg、V893 Sco、Z Cam)に対して「すざく」のデータによる解析を行った。その結果、いずれの矮新星でも、可視光での静穏時には、光学的に厚い降着円盤が白色矮星に到達する前に途切れており、まさにその途切れている辺りで、中性鉄の内核電離を引き起こすほど高温のプラズマ(kT > 10 keV)が形成されていることを発見した。この結果は、今後、矮新星静穏時における境界層からのX線放射モデルを構築する際の境界条件を与えるという意味で重要と考える。また、U Gem、SS Cygの可視光での爆発時には、X線放射の振る舞いが異なるのと同様に、X線放射領域の構造も異なることが示された。いずれの天体でも光学的に厚い降着円盤が白色矮星の表面付近(白色矮星半径の1%以内)にまで迫っている一方で、U Gemでは静穏時同様ディスク内縁上にプラズマが存在し、SS Cygは6.4keV輝線の広がったエネルギープロファイルから、光学的に厚い降着円盤上にプラズマがaccretion disk corona状に存在していることが確かめられた。本セミナーではこれらの結果を詳述し議論する。


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フェーズドアレイ気象レーダーによる降雨観測の新展開

日時:2023/11/24(金)15:00-16:30

講演者:和田有希 大阪大学大学院工学研究科・助教

場所:物理会議室(理学部1号館4階)

概要:

局地的豪雨や線状降水帯などによる甚大な災害が取り沙汰される中、その正確な観測および予測が急務となっている。豪雨や降雹、落雷などをもたらす積乱雲は地表付近と高層で温度差が大きく水蒸気量の多い不安定な大気中で対流性雲として発達し、その雲頂は対流圏界面の高度である10 kmから15 kmまで達する。こういった積乱雲を含む降水システムの観測一般には、主にマイクロ波 (5-10 GHz) を用いた気象レーダーが使用されている。従来の気象レーダーはパラボラ式のアンテナを用いてビーム幅が1度程度の電波を用いて観測を行っているが、積乱雲などの3次元降水観測を行うにはアンテナ仰角を機械的に変更して何度もスキャンする必要があり、5-10分程度を要していた。そこでより高速・高密度な観測を行うべく、2012年にフェーズドアレイ気象レーダー (PAWR)が開発された。PAWRは送信波に仰角方向に幅の広いファンビームを用い、また受信時に128本のアンテナによる位相差情報でビーム幅を1度程度に絞る電子スキャンを採用し、3次元スキャンが30秒で完了する。さらに2018年には降水の推定精度が向上した二重偏波PAWR (MP-PAWR) が開発され、埼玉大学に設置された。

本セミナーではフェーズドアレイ気象レーダーの研究開発、降水の観測と予測に関する最新の研究結果をレビューする。


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Extremely efficient fully three-dimensional hydrodynamic simulations of supernova remnants to service the era of microcalorimetric X-ray astronomy

日時:2023/09/15 (金)16:20-17:50

講演者:Shiu-Hang (Herman) Lee (李兆衡) 京都大学理学研究科・講師

場所:理学部4番教室(理学部講義実験棟1階) 理学部8番教室(理学部2号館2階)

2023/9/11追記 開催場所が変更になりました

Abstract:

Until the last decade or so, three-dimensional simulations of supernova remnants (SNRs) have been performed by a limited number of groups in the world with one main thing in mind - evolving their bona fide supernova (SN) explosion models to the remnant phase.

These models only exist in small numbers because of their huge computational costs, and they do not necessarily match with the real remnants out there in space since they are derived from supernova models in which many physical uncertainties still remain.

The burden of interpreting observations (especially X-ray observations) has thus been put on the shoulders of more phenomenological 1-D models coupled with atomic physics calculations whose computational efficiency allows for large-scale parametric surveys to confront observational data.

However, in the upcoming era of micro-calorimetric spectroscopy made possible by next generation instruments such as XRISM and ATHENA, we can expect that the amount of details in the observational data will easily go beyond the capacity of these 1-D models, and the comparison with which will no longer bring us fruitful results which can be obtained only by fully utilizing the information encoded in the anticipated high-resolution spectra.

We must seek to step up in our game on the front of modeling.


On this end, one effective path is to realize a pipeline capable of synthesizing robust X-ray spectra in a practically short enough computational time without losing the 3-D information from supernova explosion models.

Using techniques such as co-moving grids and particle tracers, we have succeeded to develop a platform which can produce a full-fledged 1,000 year old SNR from 3-D SN models (e.g., one day after explosion), using a simulation time within one Earth day on a personal computer.

Along with the hydrodynamic evolution, the particle tracer method allows for the tracking of the detailed plasma state inside the remnant such as the non-equilibrium ionization states and temperatures in an element-specific way.

The spatial distribution of different ion species as well as their velocities and temperatures are recorded in these 3-D models at all ages, from which X-ray spectra with realistic emission line profiles can be synthesized after projecting them on the sky.

In this talk, I will introduce the methodology behind these 3-D models, including a few examples for both the core-collapse and thermonuclear camps for illustration.

Results from observation simulations and spectral syntheses based on these 3-D models will also be shown for instruments including XRISM.

We aim at providing a convenient package which observers can use to interpret data in the future, presumably in the form of an extensive library of X-ray spectral templates from a combinational variety of progenitor stars, explosion environments and evolutionary stages.


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強磁場激変星のプラズマ速度分布と重力赤方偏移の検出

英語タイトル:Velocity profile of plasma flow in magnetic cataclysmic variables and detection of gravitational redshift

日時:2023/08/08 (火) 16:00-17:30

講演者:林多佳由 Dr. Takayuki Hayashi(NASA/GSFC, Maryland University)

場所:理学部2号館5階 10番教室 物理会議室(理学部1号館4階)

2023/8/7追記 開催場所が変更になりました

概要:

比較的軽い主系列星が進化した姿である白色矮星(White Dwarf: WD)は質量と半径がそれぞれ太陽と地球ほどのコンパクト天体である。単独のWDは放射によって冷え、暗くなってゆくが、WD(主星)と他の恒星(伴星)が重力的に結び付く(連星系)ことで、再び輝くことがある。連星系のサイズが十分小さく、伴星のガスが重力によってWDへ降着するものを激変星(Cataclysmic Variable: CV)と言い、矮新星、新星、Ia型超新星爆発を起こす。

主星に強磁場WD(B > 10^5 G)を持つCVは強磁場CV(magnetic CV: mCV)と呼ばれ、質量降着はWDの磁場に沿って起こる。重力ポテンシャルによって超音速に加速された降着ガスは、WD近傍で強い衝撃波(T > 10 keV) を発生し、プラズマ化する。プラズマはX線などの放射で冷却し、減速しながら落下するため、Feなどの重元素H-likeイオンは衝撃波直下の高速落下(>∼ 10^3 km/s)、Siなどの比較的軽い元素ではWD表面に近い低速落下(<∼ 10^2乗 km/s)領域に存在する。このような速度分布を念頭に、mCV RX J1712.6–2414を、高エネルギー分解能(∆E/E ∼ 1/300@2keV)を誇るChandra衛星で観測した。結果、H-like Si, S, FeのKα線から、測定誤差を超える赤方偏移∆E/Erest ∼ 3.3−15×10^−4(Erest は静止エネルギー)を捉えた。

しかし、この偏移量はプラズマ流モデルで予言されるドップラー偏移よりも有意に大きく、中央値だと4倍以上になる。さらに、連星系全体の運動によるドップラー偏移やKα1,2線の光学的厚さの違いによる重心の移動でも説明できない。結果、観測された赤方偏移を説明するには重力赤方偏移(∆E/Erest>∼ 2×10^−4)の寄与が必要であると結論された。 本セミナーではmCVのプラズマ流モデルを紹介し、X線観測と解析、観測された赤方偏移を説明し得る効果を検討し、重力赤方偏移検出の結論に至る経緯を示す。

zoomURL(パスワードは受け入れ教員に確認のこと)


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電波超新星に基づいた大質量星の質量放出史の解明

日時:2021/10/22 (金) 9:30-10:30

講演者:松岡知紀(京都大学 博士後期課程2年)

場所:物理学会議室(理学部1号館4階)

概要:

太陽の約8倍以上の質量をもつ大質量星は、恒星風などによる質量放出を経験しながら進化し、最期に重力崩壊型超新星と呼ばれる大爆発を起こして一生を終える。超新星からの放射は親星そのものの特徴を反映するだけでなく、質量放出により形成された星周物質の情報も含んでおり、親星の質量放出率に示唆を与える。特に超新星の電波放射は星周物質の密度の良いトレーサーであり、大質量星の恒星進化を観測的に制限する重要な手段となる。

近年の超新星の可視光観測により大質量星は爆発のわずか100年前から大規模な質量放出をしていることが提唱され始め、既存の恒星進化理論では説明できない現象として注目を集めている。これは親星の近傍にのみ分布する高密度な星周物質が可視光の放射に及ぼす影響をもとに示唆されているが、可視光観測では初期に明るい超新星にバイアスされる、輻射輸送モデルの解釈が複雑になるといった問題を含んでいる。そこで我々は星周物質の探査手段としてよりクリアなものである電波放射に注目し、重力崩壊型超新星の初期における電波放射のモデリングと観測を試みた。高密度な星周物質においては電波放射の典型的周波数が高くなるため100GHz帯のミリ波放射が卓越する。そして、そのミリ波放射は可視光観測よりも高い精度で星周物質の密度を区別できるうえ、ALMA干渉計で検出可能なほど明るく輝くことを示した。さらに、我々の観測グループではALMA干渉計のTarget of Opportunity観測を行い、超新星の爆発直後におけるミリ波観測に取り組んだ。その結果、爆発直後に可視光で暗い超新星でも電波放射は生じること、そのような超新星親星でも爆発の直前に質量放出率が増加していることを明らかにした。本講演ではこれらの研究成果の詳細や、超新星・超新星残骸の進化と大質量星の恒星進化を結びつけるような研究の将来展望について議論する。


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NICER views of neutron stars' extreme physics

講師: Dr. Gaurava Kumar Jaisawal (National Space Institute (DTU Space), Technical University of Denmark, Eleckrovej, Denmark)
日時: 2019年7月26日 (金) 17時00分 から 18時30分
会場: 物理会議室 (理学部1号館4階)
概要:
A new dawn in the high energy astrophysics has begun after the launch of the Neutron Star Interior Composition Explorer (NICER) X-ray instrument on the International Space Station in June 2017. NICER provides an unprecedented timing and spectral sensitivity in the 0.2-12 keV (soft X-rays) range and is designed to explore the extreme physics around neutron stars. Some of the exotic physics of these compact objects rely on the understanding of thermonuclear bursts that arise from the unstable burning of accreted hydrogen and/or helium on the stellar surface. We have witnessed many exciting X-ray bursts, allowing us to probe the extreme burning physics and also the equation of state of neutron stars. Some of the results will be presented in this talk. I will also discuss our recent findings on X-ray pulsars, mainly focusing on a case study of super-Eddington accretion on a pulsar Swift J0243.6+6124, also known as the first Ultraluminous X-ray pulsar in our Milky Way Galaxy.

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超新星残骸の MeV 宇宙線と銀河団の Fundamental Plane

講師: 藤田裕 (大阪大学)
日時: 2019年6月27日 (木) 17時30分 (物理コース会議終了後) から 18時30分
会場: 物理会議室 (理学部1号館4階)
概要:
本セミナーでは2つのテーマについて話す。
  1. 超新星残骸 (SNR) の周囲で観測されているX線中性鉄輝線の放射が、SNRからのガンマ線と同時に SNR で加速された宇宙線で説明できるかどうか調べた。我々のシナリオでは 、GeV, TeV 宇宙線はすでに SNR から逃走しており、周囲の分子雲と相互作用をすることでガンマ線を放出する。一方、SNR 内に閉じ込められていた MeV 宇宙線の一部は SNR から分子雲にしみ出し、そこで中性鉄と衝突することで中性鉄輝線を生成する。我々は標準的な宇宙線加速・逃走モデルをこのシナリオに沿って改変し、標準的なパラメーターを用いて解析的な計算を行った。その結果、ガンマ線スペクトル、中性鉄輝線強度の両方について、問題なく説明できることがわかった。
  2. 銀河団の内部構造と成長過程の詳細な関係を調べるために、まず CLASH 銀河団サンプルを用いて、銀河団 のcharacteristic radius (r_s), characteristic mass (M_s), 温 度 (T_X) のデータを得た。そしてこれらのデータを (log r_s, log M_s, log T_X) 空間にプロットしたところ、非常に薄い平面状に分布することを見出した。さらに宇宙論的なシミュレーションでもこの平面の存在を確認した。銀河団は成長する過程で、温度が上昇し、質量と半径が増加するが、それは銀河団のこの平面上の移動で表されることもシミュレーションは示している。一方、平面の向きはこれまでの単純な予想と有意にずれている。我々は解析的な similarity solution でこの平面の向きのずれを説明することに成功 した。それによると、このずれは銀河団はビリアル平衡に完全に到達していないためであり、外から連続的に物質が落下する効果を取り入れないと構造を正しく議論できないことを示している。

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X-ray Study of astronomical objects with the Chinese X-ray satellite HXMT

講師: Divin Gavran (Universitat Tubingen)
日時: 2019年4月25日 (木) 10時から
会場: Science Lecture room 3 (理学部3番教室)
概要:
We present the overview of the Chinese X-ray astronomical satellite HXMT, the tutorial of the analyses, and tescience study case of the neutron star observations.
DivinGavran氏は、理工学研究科とJAXAの連携協定の中で進めている、日中X線宇宙物理学の共同研究の中で、2019年3月から4月の2ヶ月間、埼玉大学に短期留学している学生です。中国のX線観測衛星HXMTを用いて、中性子星のX線観測に関する研究を行っていただきました。本セミナーはその科学成果の経過報告だけでなく、HXMT衛星の概要とその衛星データ解析の手順などもお話いただく予定です。

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Ia型超新星残骸内の塊構造と核燃焼過程の関係性

講師:佐藤 寿紀(理化学研究所/NASA GSFC)
日 時:2019年3月25日(月) 16時20分~
会 場:理学部1号館物理会議室
概要:
 Ia型超新星は、白色矮星がチャンドラセカール臨界質量(約 1.4太陽質量)に近づいた際に起こる星の核暴走爆発であり、この爆発的核融合によって現在宇宙に存在する鉄の大部分が賄われていると考えられている。一方で、どのようにして白色矮星が爆発まで至るかは謎であり(そもそも爆発時に臨界質量まで達しているかすら未だに謎)、その爆発機構の解明は現代宇宙物理学上で最重要課題の一つとなっている。
 我々の住む天の川銀河内には、この Ia型超新星の残骸と考えられている天体がいくつか存在している。中でも、西暦1600年前後のほぼ同時期に観測された2つの超新星が有名であり、観測者の名前をとって「ティコの超新星 (SN 1572)」と「ケプラーの超新星(SN 1604)」と呼ばれている。我々は現在、これらの残骸内に存在する奇妙な「塊構造」の形成過程と、その爆発機構との関係性についてX線観測を用いた研究を行なっている。Ia型超新星残骸をX線で観測すると、爆発時に合成された元素がボコボコと塊状に分布していることが知られているが、いつこの様な構造が形成されたかは分かっていない。さらに謎なのは、爆発時に白色矮星の中心部で合成されるはずの鉄が大量に含まれた塊構造が両天体の表面に突出している事である。本セミナーでは、我々のX線観測の結果を、Ia型超新星の元素合成モデルや残骸の流体モデルと比較しながら、なぜIa型超新星残骸内にこのような塊構造が存在しているのか、そして、それらは爆発機構とどんな関係性があるかを議論したい。

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モンテカルロシミュレーションの天体物理学への応用

講師: 大野雅功 (広島大学 助教)
日 時:2018年12月3日(月) 16時20分~
会 場:理学部1号館物理会議室
概要:
乱数を用いて確率的に現象の理解や計算の近似解を求めるモンテカルロシミュレーションは、検出器内における多重で複雑な物理素過程の結果生じる検出器応答の解析や、多数のパラメータ組み合わせから最適解と信頼範囲を確率的に求める手法など、多くの分野で応用されている。我々のグループでは、モンテカルロシミュレーションを天体における光子の相互作用と放射輸送過程に適応することで、従来の単純なモデル計算では縮退していたパラメータを独立に求め、放射領域の速度場、密度、重元素組成比などの情報を引き出すことを試みている。特に、Geant4 をベースとして詳細なジオメトリ構造や物理素過程を独自に導入するフレームワークを開発し、活動銀河核周辺の分子雲トーラスの物理状態や、ペルセウス銀河団における高温ガスの速度場の制限、さらに地球大気で散乱された太陽X線放射モデルの構築などに応用する研究を進めており、本セミナーで我々の開発したシミュレーションフレームワークとその結果について紹介する。

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星間物質の精査による超新星残骸の探求

講師: 佐野栄俊(名古屋大学 特任助教)
日 時:2018年10月15日(月) 16時20分~
会 場:理学部1号館物理会議室
概要:
宇宙線の起源は、宇宙物理学100年来の謎である。超新星残骸 (SNR) が、銀河宇宙線(< 1015.5 電子ボルト)の加速源の有力候補として注目されている。通常、宇宙線の加速理論 DSAでは、薄い星間物質が想定され、現実的な非一様密度分布をもつ星間物質は考慮されていない (e.g., Ellison et al. 2010)。しかし我々は、銀河系内のガンマ線SNRについて星間物質の系統的研究を行い、衝撃波と星間分子・原子雲(高密度水素分子・原子ガス)との相互作用が、ガンマ線とX線の発生ならびに宇宙線の起源解明に本質的であることを示してきた。例えば、RX J1713.7?3946に代表されるガンマ線と星間陽子分布の一致は、陽子起源ガンマ線の必要条件であり、SNRにおける宇宙線陽子の加速を強く示唆する (e.g., Fukui et al. 2012, 2017; Fukuda et al. 2014; Sano et al. 2018a)。また、衝撃波と高密度ガス塊との衝突は乱流/磁場を増幅し、シンクロトロンX線の増光や、陽子起源ガンマ線のスペクトル変調を引き起こす (e.g., Sano et al. 2010, 2013, 2015, 2017ab, 2018abc; Inoue et al. 2012)。以上の成果を踏まえ本講演では、電波観測による星間物質の精査を軸とした、超新星残骸の宇宙線研究について現状をまとめる。加えて、ALMA を用いた最新の研究成果、次世代ガンマ線望遠鏡 CTA を見据えた準備研究、ならびに今後の研究計画について概観する。

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Chandra X-Ray Kinematics Study of Young Supernova Remnants

講師: Sangwook Park(University of Texas at Arlington)
日 時:2018年4月16日(月) 16時20分~
会 場:理学部1号館物理会議室

Abstract
Supernova remnants are an excellent laboratory to study fundamental subjects of modern astronomy and astrophysics such as stellar evolution and explosion. Realizing the 3-dimensional structure of supernova explosions is critical to understand the explosion physics and the nature of the exploded star. Based on the high resolution grating spectroscopy of Chandra X-ray Observatory, we can perform X-ray kinematic studies of metal-rich stellar debris of supernova explosions to address their 3-D nature. We briefly discuss such kinematic studies of supernova remnants, including our on-going studies of historical events: stellar explosions eye-witnessed in 1987, 1604, and 1572.

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天文画像データの解析手法

講師: 森井幹雄(統計数理研究所)
日 時:2018年2月23日(金) 16時00分~
会 場:理学部1号館物理会議室

Abstract
近年、すばる望遠鏡/Hyper Suprime-CamやTomo-e Gozenなど可視光望遠鏡を用いた大規模サーベイにより、大量の観測データが得られるようになってきた。そのため膨大なデータを効率的に解析する必要がある。我々は、機械学習を用 いることで効率的に超新星など突発天体を選出する手法を開発した。天体形状の特徴量を用いた方法と、動画からスパース性を用いて抽出する方法を紹介する。また、X線画像データを 効率的に分離したり、移動量を求める方法についても紹介する。

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Evidence for GeV Cosmic Rays from White Dwarfs in the Local Cosmic Ray Spectra and in the Gamma-ray Emissivity of the Inner Galaxy

講師:釜江常好 (東京大学・名誉教授)
日 時:2018年2月16日(金) 17時30分~
会 場:理学部1号館物理会議室

Abstract
Recent observations found that electrons are accelerated to 10 GeV and emit synchrotron hard X-rays in two magnetic white dwarfs (WDs), also known as cataclysmic variables (CVs). In nova outbursts of WDs, multi-GeV gamma-rays were detected inferring that protons are accelerated to 100 GeV or higher. In recent optical surveys, the WD density is found to be higher near the Sun than in the Galactic disk by a factor 2.5. The cosmic rays (CR) produced by local CVs and novae will accumulate in the local bubble for 10^6 -- 10^7 yrs. On these findings, we search for CRs from historic CVs and novae in the observed CR spectra. We model the CR spectra at the heliopause as sums of Galactic and local components based on observational data as much as possible. The initial Galactic CR electron and proton spectra are deduced from the gamma-ray emissivity, the local electron spectrum from the hard X-ray spectra at the CVs, and the local proton spectrum inferred by gamma-ray spectrum at novae. These spectral shapes are then expressed in a simple set of polynomial functions of CR energy and regressively fitted until the high-energy (>100 GeV) CR spectra near Earth and the Voyager-1 spectra at the heliopause are reproduced. We then extend the modeling to nuclear CR spectra and find that one spectral shape fits all local nuclear CRs and the apparent hardening of the nuclear CR spectra is caused by the roll-down of local nuclear spectra around 100 -- 200 GeV. All local CR spectra populate in a limited energy band below 100 -- 200 GeV and enhance gamma-ray emissivity below 10 GeV. Such an enhancement is observed in the inner Galaxy, suggesting the CR fluxes from CVs and novae are substantially higher there.

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Cyclotron resonance scattering features and Magnetic field of pulsars

講師:Dr. Gaurava K. Jaisawal (インド Astronomy and Astrophysics Division Physical Research Laboratory)
日 時:2016年12月9日(金) 15時00分~
会 場:理学部1号館物理会議室

Abstract
Cyclotron resonance scattering features or cyclotron absorption lines are unique features observed in hard Xray spectra of accretion powered X-ray pulsars with magnetic field of the order of 1012 G. Detection of these features is a powerful tool and the only direct method to estimate the magnetic field strength close to the surface of neutron stars. Corresponding to magnetic field of ~1012 G, the fundamental lines are expected in 10-100 keV energy range with harmonics expected at multiples of fundamental line energy. However, we detected first harmonics of cyclotron line at less than twice of the fundamental line energy (~ 1.7 times the fundamental line energy) in Be/X-ray binary pulsar Cep X-4. With the broadband spectral capability of Suzaku and NuSTAR observatories, we have investigated several X-ray pulsars to understand line shape, width, magnetic field mapping, anharmonicity in the line energies and luminosity-dependent properties of cyclotron lines. The results obtained from these works and new detection of cyclotron line in unknown/ poorly studied sources will be discussed in detail.

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SFXTs vs sgHMXBs: does the difference lie in the companion wind?

講師:Dr. Pragati Pradhan (インド St. Joseph's College)
日 時:2016年12月9日(金) 16時00分~
会 場:理学部1号館物理会議室

Abstract
We present a comparative study of classical supergiant HMXB and SFXT systems by using the absorption column density and equivalent width of iron Kα line in their X-ray emission. The work has been carried out using out-of-eclipse observations sgHMXBs(SFXTs) with Suzaku and XMM-Newton and we have taken care to separately analyse parts of any observation with significant variation in the spectrum. Analysis of all archival Suzaku and XMM-Newton observations of these systems show that sgHMXBs have a wide range of equivalent width of iron emission line and equivalent column density of absorption, both over three orders of magnitude. In comparison, the SFXTs show a smaller range for both the parameters, less than one and a half order of magnitude. These findings indicate a crucial difference in the wind characteristics of the companions of sgHMXBs and SFXTs, which could be an important factor for the intriguing difference in average X-ray luminosity and transient behavior between these two classes of sources.

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